-- ◆【第04章】 いわゆる『南京事件』と支那敗残兵処断◆ --

--【第39項】 国際法学者藤田教授と『軍事的必要』--

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ネット上では、いわゆる『南京事件』に関連する国際法解釈を論じる際に、【国際法学者藤田教授】見解を引用して【軍事的必要】を否定する論を見る事があります。下記が、その部分になります。



『新版国際人道法』 藤田久一著(※国際法学者)

また、ドイツ流の戦数論を批判しつつ、戦数とは別のより狭い特別の軍事必要概念を認め、その場合にのみ戦争法侵犯を肯定する見解もある。

しかし、この軍事必要概念も戦数と実際上区別し難く、結局戦数論と選ぶところがなくなってしまうと思われる。

そもそも、戦争法、人道法の諸規定は軍事必要により多くの行動がすでに許容される武力紛争という緊急状態においてなお遵守が要請されるものであるから、それらの規定は予め軍事必要を考慮に入れたうえ作成されている。

したがって、条約規定中、とくに、「緊急な軍事上の必要がある場合」とか「軍事上の理由のため必要とされるとき」といった条項が挿人されている場合を除き、戦数や軍事必要を理由にそれらを破ることは許されない。



比較してみると、上記見解は、下記の【国際法学者ウェストレーク】による【戦数否定論】と全く同じです。



『国際法V』 田岡良一著(※国際法学者)

リューダーの説に対する反対説を詳細に説いた嚆矢は英国のウェストレークであり、それ以来戦数否定論は英国の通説となっている。第一世界大戦以降にはドイツ、オーストリアの学者のなかにも否定論に賛成するものがある。これらの否定論者の説に従えば、

「全ての戦争法規は、軍事的必要と人道的原則(または第三国の利益)との妥協として成立したものであり、従って戦争法規が作られるに当って軍事的必要はすでに考慮されている。

この法規をさらに軍事的必要によって破るのを許すことは、戦争法規制定の意義を没却するものである。故に戦数が戦争法に優先するという説は賛成できない。

ただし、戦争法に関する条約・法規のなかには『軍事的必要なき限り』または『軍事的状況の許す限り』交戦国はかくかくの措置をとらねばならぬ、という言葉によって、その効力を制限するものがある。こういう条項(軍事的必要条項)を含む法規が軍事的必要によって破られるのは当然である。

しかし戦数肯定論者は、こういう条項のない法規についてもなお軍事的必要に藉口する侵犯を是認しようとするものである。

この説は、結局全ての戦争法規に軍事的必要条項が暗黙に含まれていることを擬制することになり、条約制定者が、ある法規には軍事的必要条項を付け、他の法規にはこれを付けないという区別を設けたことを、無意味ならしめるものである。

故に軍事的必要条項が明示的に付けられた法規を除き、全ての戦争法規は絶対的効力を持つものと見なさねばならぬ。」



しかしながら、【戦数否定論】を唱えた【国際法学者ウェストレーク】も、【勝利の達成、緊急の危険回避のために戦争法に優先する事態を容認】しており、実質的な面において【戦数】との差が無い事を【第36項】で確認しました。



【戦数】【戦数否定論】も勝利の達成・緊急危険回避のために【法規が妥当しない例外を容認】


『国際法V』 田岡良一著(※国際法学者)

戦数の理論はドイツに端を発し、これを始めて体系化して説いたのは十九世紀後半のドイツの戦争法の泰斗リューダー(Lueder)であり、その後多くのドイツ学者によって祖述せられて第一大戦以前のドイツ国際法学の通説となったリューダーの説に従えば、

「個人の場合にさえ、緊急状態は、彼のなす重大な侵害行為を罰せられないものとする。そうとすれば、より重大な国家的利益が賭けられている戦争においてはなおさらそうではなくてはならぬ。

もし戦争の目的の達成、および重大な危険からの回避が、戦争法の障壁によって妨げられ、その障壁を破ることによってのみ戦争目的は達せられ、また重大な危険は避けられるような事情が生じた場合には、戦争法の障壁を破ることは許される。…」



『国際法V』 田岡良一著(※国際法学者)

…例えばハーグ陸戦条規第二三条(ニ)号「no quarter」を宣言することの禁止(投降者不助命を宣言することの禁止)は、何人も知るように「軍事的必要条項」を含んでいない。

しかるにウェストレークの戦時国際法によれば、

この規定が実行不能な場合として一般に承認されているのは、戦闘の継続中に起こる場合である。このとき投降者を収容するために軍を停め、敵軍を切断し突撃することを中止すれば、勝利の達成は妨害せられ、時として危くされるであろう。

のみならず戦闘の継続中には、捕虜をして再び敵軍に復帰せしめないように拘束することが実行不可能な場合が多い」

この言葉は、戦争法に遵って行動しては勝利の獲得が困難な場合には、法を離れて行動することを許すものではあるまいか。戦争法が戦術的または戦略的目的の達成を妨げる障壁をなす場合には、法の障壁を乗り越えることを許すものではあるまいか。



『国際法辞典 国際法学会編』 竹本正幸著(※国際法学者)

…戦数を肯定する学者も、一般には戦争法が尊守しうるものとして作られていることを認めている。ただ、きわめて例外的な場合にのみ戦数を主張しているにすぎない。他方、否定的立場をとる学者は、軍事的必要条項を含んでいない法規について、解釈上例外を認めている。

すなわち、肯定説は、戦数を一般的理論として述べるのに対して、否定説は、個々の法規の解釈の中に例外を認めようとするのであって、その表面的対立にもかかわらず両説は実質的にはそれほど大きな差はないと思われる。



南京事件肯定派は、都合の良い部分だけをつまみ食いする傾向があります。【国際法学者藤田教授】見解についても、該当箇所の前後を含めて正しく確認する必要がありそうです。


下記が、【国際法学者藤田教授】による【軍事的必要】に関する見解の全文になります。



『新版国際人道法』 藤田久一著(※国際法学者)

…たしかに、一般的にいえば、人道法の実効性は多分野にわたる国際法規則のなかでも最も不安定で疑わしい分野に入ると考えられてきた。

武力紛争中に適用されねばならない人道法にはその法遵守を効果的に強制する手段もないこと、また戦数によって緊急事態には法を破りうるという主張、が右の疑問に拍車をかけてきたことは事実である。

しかし、かつてドイツの学者が主張した戦数が人道法分野で認められるかどうかはきわめて疑問でありむしろ否定的に解されねばならないと思われるが(1)、そもそも戦数は、例外的な緊急事態にのみ認められる概念であるとすれば、人道法の実効性を一般的に否定するものではなく、それを前提にさえしているといわねばならない。

(1). 戦数ないし戦時非常事由の理論は一九世紀後半ドイツの学者により唱えられ、第一次世界大戦までドイツでは通説とされていたもので、その意味するところは、国家の緊急事態、すなわち、戦争の目的達成や重大な危険からの回避という事態において、戦数が戦争法に優先する、ということである。

一般に、すべての法制度にはそれに内在する局限性、つまり緊急状態ないし必要状態がそれを破りうることを含んでいるともいわれ、国家緊急権という言葉もある(小林直樹『国家緊急権』学陽書房、一九七九年参照)。国際法においても、重大な危険により脅かされる国家の本質的利益を守る他の手段のないとき、国際義務に反する国家行為の違法性が阻却される場合がありうるとも考えられる。

しかし、戦争法や人道法分野にこれを不用意に導人することはきわめて危険である。戦争や武力紛争の状態は、そもそも国家の重大な利益やその生存のかかった事態であるから、あらゆる戦争法、人道法の無視が、戦数を理由に正当化されてしまうからである。

また、ドイツ流の戦数論を批判しつつ、戦数とは別のより狭い特別の軍事必要概念を認め、その場合にのみ戦争法侵犯を肯定する見解もある。

しかし、この軍事必要概念も戦数と実際上区別し難く、結局戦数論と選ぶところがなくなってしまうと思われる。

そもそも、戦争法、人道法の諸規定は軍事必要により多くの行動がすでに許容される武力紛争という緊急状態においてなお遵守が要請されるものであるから、それらの規定は予め軍事必要を考慮に入れたうえ作成されている。

したがって、条約規定中、とくに、「緊急な軍事上の必要がある場合」とか「軍事上の理由のため必要とされるとき」といった条項が挿人されている場合を除き、戦数や軍事必要を理由にそれらを破ることは許されない。

このいわば戦数否定論は、ユス・コーゲンス的色彩の濃い人道法の性質に照らしても、またジュネーブ条約の規定米英の軍事提要の動向(The Law of Land Warfare, FM27-10[1956] sec3.; The Law of War on land, The War Office [1958], sec.633) からみても正当であるといえよう。



上記を確認すると、【国際法学者藤田教授】は、【緊急な軍事上の必要がある場合】もしくは【軍事上の理由のため必要とされるとき】の条文があるもの以外は絶対の効力を持つと解釈しており、その根拠とて下記の四つを上げています。

根拠1: 【ユス・コーゲンス的色彩の濃い人道法】
根拠2: 【ジュネーブ条約の規定】
根拠3: 【米軍事提要の動向=The Law of Land Warfare, FM27-10[1956] sec3.】
根拠4: 【英軍事提要の動向=The Law of War on land, The War Office [1958], sec.633】

上記四つの根拠を全て確認し、いわゆる『南京事件』に上記見解が適用可能なのかを判断したいと思います。


まず最初に下記を確認したいと思います。

根拠1: 【ユス・コーゲンス的色彩の濃い人道法】

【ユス・コーゲンス】とは、どの様なものなのでしょうか。法律用語辞典によれば、この様に説明されていました。



【ユス・コーゲンス】とは国際法上その適用を排除することが許されないとした【強行法規】


【強行法規】の法的根拠は【条約法に関するウィーン条約(条約法条約)第五十三条】


【ユス・コーゲンス】(※有斐閣法律用語辞典 内閣法制局法令用語研究会編から引用)

国際法上、国家間の合意によりその適用を排除することが許されない一般国際法規範。国際法上の強行法規と呼ばれる。

「条約法に関するウィーン条約」五三条は、「締結の時に一般国際法の強行規範に抵触する条約は、無効である」とし、国際法上、強行法規が存在することを認めた。

しかし、何がユス・コーゲンスであるかについては、特定していない。ユス・コーゲンスの認定について争いが生じたときは、最終的には、国際司法裁判所に付託することとされている。具体的な例としては定説はないが、侵略行為、集団殺害犯罪などが掲げられることが多い。



条約法に関するウィーン条約(条約法条約) 第五十三条
[ http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/mt/19690523.T1J.html ]

締結の時に一般国際法の強行規範に抵触する条約は、無効である。この条約の適用上、一般国際法の強行規範とは、いかなる逸脱も許されない規範として、また、後に成立する同一の性質を有する一般国際法の規範によつてのみ変更することのできる規範として、国により構成されている国際社会全体が受け入れ、かつ、認める規範をいう。



では、日本において、上記【条約法に関するウィーン条約(条約法条約)第五十三条】が効力を発生させたのはいつだったのでしょうか。外務省ホームページによれば、【1980年(※昭和55年)8月1日】となっていました。



【条約法に関するウィーン条約】が日本で効力を発生させたのは【1980年(※昭和55年)8月1日】


外務省 条約法に関するウィーン条約 (略称)条約法条約
[ http://www3.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdf/B-S56-0581_1.pdf ]

昭和四十四年五月二十三日 ウィーンで作成
昭和五十五年一月二十七日 効力発生
昭和五十五年五月二十九日 国会承認
昭和五十五年六月二十六日 加入についての閣議決定
昭和五十五年七月二日    公布及び告示(条約第十六号及び外務省告示第二八二号)
昭和五十五年八月一日    我が国について効力発生



という事は、



【1937年の日本軍による南京攻略戦】に対して【ユス・コーゲンス】の概念は適用できない


と判断されます。いわゆる『南京事件』を検証する際には、【現行法(=南京戦時における現行法)】【適用法規】の厳密な吟味が必要なのです。



南京事件を検証する際の【適用法規】については【厳密な吟味・注意】が要求される


『南京事件と戦時国際法』 佐藤和男教授(※国際法学者)

…以上見た限りにおいても、捕虜に関する国際法上の規範の内容が時代の進展とともに変化(おおむね改善)せしめられていることが理解されよう。その規範の法源は十九世紀後半に至って慣習法から条約へと徐々に転換して成文化の道を辿ることになるのであるが、各時代・各国家間関係に対応して現実に適用される関係法規の実体の認定に際して、厳密な注意が要求されることは、いうまでもない。



『国民のための戦争と平和の法』 色摩力夫著(※戦時国際法の専門家)

…それでは具体的にはどこに規定されているのでしょうか。いかなる文書を読めばよいのでしょうか。それには、現在、本当に効力があり、国際社会で直接妥当している慣習法及至「条約」はどれかということを、厳密に吟味しながら特定しなければなりません。

つまり、専門用語で言えば「現行法」は何か、「適用法規」はどれかという前提問題です。

この前提問題は、国際法のみならず、いかなる法の分野でも意外とややこしい問題なのです。よほど精密に検討しないと、うっかり間違えることがあります。専門家と自称している人でも間違いを冒すことが少なくありません。十分の注意を要します。




次に、下記を確認します。

根拠2: 【ジュネーブ条約の規定】

上記の【ジュネーブ条約の規定】を考慮する際、下記二つのジュネーブ条約が重要になります。

@:俘虜の待遇に閑する条約(※1929年ジュネーブ俘虜条約)
A:1949年ジュネーブ諸条約(※ジュネーブ四条約)

【国際法学者藤田教授】見解における【ジュネーブ条約の規定】とは、【A:1949年ジュネーブ諸条約(※ジュネーブ四条約)】の方を指していると考えられます。その理由は、下記下線部分の記載にあります。



『新版国際人道法』 藤田久一著(※国際法学者)

そもそも、戦争法、人道法の諸規定は軍事必要により多くの行動がすでに許容される武力紛争という緊急状態においてなお遵守が要請されるものであるから、それらの規定は予め軍事必要を考慮に入れたうえ作成されている。

したがって、条約規定中、とくに、「緊急な軍事上の必要がある場合」とか「軍事上の理由のため必要とされるとき」といった条項が挿人されている場合を除き、戦数や軍事必要を理由にそれらを破ることは許されない。

このいわば戦数否定論は、ユス・コーゲンス的色彩の濃い人道法の性質に照らしても、またジュネーブ条約の規定や米英の軍事提要の動向(The Law of Land Warfare, FM27-10[1956] sec3.; The Law of War on land, The War Office [1958], sec.633) からみても正当であるといえよう。



上記における【緊急な軍事上の必要がある場合】及び【軍事上の理由のため必要とされるとき】は、【1949年ジュネーブ諸条約(※ジュネーブ四条約)】からの引用なのです。



戦地にある軍隊の傷者及び病者の状態の改善に関する千九百四十九年八月十二日の
ジュネーヴ条約(第一条約) 第三十三条〔衛生機関の建物及び材料〕

A 軍隊の固定衛生施設の建物、材料及び貯蔵品は、引き続き戦争法規の適用を受けるものとする。但し、それらの建物、材料及び貯蔵品は、傷者及び病者の看護のために必要とされる限り、その使用目的を変更してはならない。

もっとも、戦地にある軍隊の指揮官は、緊急な軍事上の必要がある場合には、前記の施設内で看護される傷者及び病者の福祉のためにあらかじめ措置を執ることを条件として、それらの建物、材料及び貯蔵品を使用することができる。



戦地にある軍隊の傷者及び病者の状態の改善に関する千九百四十九年八月十二日の
ジュネーヴ条約(第二条約) 第二十八条〔病室の保護〕

軍艦内で戦闘が行われる場合には、できる限り病室を尊重し、且つ、これに対する攻撃を差し控えなければならない。それらの病室及びその設備は、引き続き戦争法規の適用を受けるものとする。但し、傷者及び病者のため必要とされる限り、その使用目的を変更してはならない。

もっとも、それらの病室及び設備をその権力内に有するに至った指揮官は、緊急な軍事上の必要がある場合には、それらの病室の中に収容されている傷者及び病者に対する適当な看護を確保した後、それらの病室及び設備を他の目的に使用することができる。



戦地にある軍隊の傷者及び病者の状態の改善に関する千九百四十九年八月十二日の
ジュネーヴ条約(第四条約) 第四十九条〔追放〕

A もっとも、占領国は、住民の安全又は軍事上の理由のため必要とされるときは、一定の区域の全部又は一部の立ちのきを実施することができる。この立ちのきは、物的理由のためやむを得ない場合を除く外、被保護者を占領地城の境界外に移送するものであってはならない。こうして立ちのかされた者は、当該地区における敵対行為が終了した後すみやかに、各自の家庭に送還されるものとする。



従いまして、【現行法(=南京戦時における現行法)】及び【適用法規】を考えると、いわゆる『南京事件』に適用する事はできないと判断されます。



【1937年の日本軍による南京攻略戦】に対して【1949年ジュネーブ条約】の概念は適用できない


南京事件を検証する際の【適用法規】については【厳密な吟味・注意】が要求される


『南京事件と戦時国際法』 佐藤和男教授(※国際法学者)

…以上見た限りにおいても、捕虜に関する国際法上の規範の内容が時代の進展とともに変化(おおむね改善)せしめられていることが理解されよう。その規範の法源は十九世紀後半に至って慣習法から条約へと徐々に転換して成文化の道を辿ることになるのであるが、各時代・各国家間関係に対応して現実に適用される関係法規の実体の認定に際して、厳密な注意が要求されることは、いうまでもない。



『国民のための戦争と平和の法』 色摩力夫著(※戦時国際法の専門家)

…それでは具体的にはどこに規定されているのでしょうか。いかなる文書を読めばよいのでしょうか。それには、現在、本当に効力があり、国際社会で直接妥当している慣習法及至「条約」はどれかということを、厳密に吟味しながら特定しなければなりません。

つまり、専門用語で言えば「現行法」は何か、「適用法規」はどれかという前提問題です。

この前提問題は、国際法のみならず、いかなる法の分野でも意外とややこしい問題なのです。よほど精密に検討しないと、うっかり間違えることがあります。専門家と自称している人でも間違いを冒すことが少なくありません。十分の注意を要します。



仮に上記見解における【ジュネーブ条約の規定】の中に、【俘虜の待遇に閑する条約(※1929年ジュネーブ俘虜条約)】を含めたとしても、日本は本条約には未加入ですので、いわゆる『南京事件』に適用する事はできません。



『南京事件と戦時国際法』 佐藤和男教授(※国際法学者)

第一次世界大戦の経験を通じて右のハーグ規則十七箇条の不備と不明確性が明らかとなり、その欠陥は一九一七年、一九一八年に諸国間で結ばれた諸条約によって、一部是正された。

一九二一年にジュネーブで開かれた第十回国際赤十字会議は、捕虜の取扱いに関する条約の採択を勧告し、一九二九(昭和四)年にスイス政府は、そのような条約の採択(および戦地軍隊の傷者・病者に関する一九〇六年ジュネーブ条約の改正)のために外交会議を招集して、「俘虜(捕虜)ノ待遇二閑スル条約」を同年七月に正式に採択せしめるに至った。

この一九二九年ジュネーブ捕虜条約は、一八九九年、一九〇七年のハーグ陸戦規則中の捕虜に関する諸規定をある程度補足し改善する意義を有していた。

右条約は、支那事変当時、日支両国間の関係には適用されなかった。支那(中華民国)は一九三六年(昭和十一)年五月に同条約に加入していたが、日本は未加入であったからである(本条約は、条約当事国である交戦国の間で拘束力を持つ)。…



『戦時国際法論』 立作太郎博士(※国際法学者)

第三章 陸戦に於ける俘虜 第一節 俘虜に関する沿革

…ハーグの陸戦条規に於て、俘虜に関して、此趣意に依る規定を見るに至った(同条約第一款第二章参照)。世界大戦に於て、俘虜の取扱に関して、交戦国は互いに敵国の措置を非難した。

世界大戦の経験は、俘虜を本国軍人と同様に待遇するの思想が実行困難なることを教へたるものの如くである。千九百二十九年七月俘虜の待遇に関する条約が結ばれ、ハーグ陸戦条規の規定に変更を加へたが、我国は未だ之に批准せざるを以て、主としてハーグ陸戦条規に依り説明せんと欲する。

(※上記の『世界大戦』とは『第一次世界大戦』の事です。)




残りは、下記です。

根拠3: 【米軍事提要の動向=The Law of Land Warfare, FM27-10[1956] sec3.】
根拠4: 【英軍事提要の動向=The Law of War on land, The War Office [1958], sec.633】

上記についても、既に説明した通り、いわゆる『南京事件』に適用できる【現行法(=南京戦時における現行法)】及び【適用法規】の観点から、【米軍事提要=1956年】及び【英軍事提要=1958年】を適用する事はできないと判断されます。



【1937年の日本軍による南京攻略戦】に対して【1956年、1958年軍事提要】の概念は適用できない


南京事件を検証する際の【適用法規】については【厳密な吟味・注意】が要求される


『南京事件と戦時国際法』 佐藤和男教授(※国際法学者)

…以上見た限りにおいても、捕虜に関する国際法上の規範の内容が時代の進展とともに変化(おおむね改善)せしめられていることが理解されよう。その規範の法源は十九世紀後半に至って慣習法から条約へと徐々に転換して成文化の道を辿ることになるのであるが、各時代・各国家間関係に対応して現実に適用される関係法規の実体の認定に際して、厳密な注意が要求されることは、いうまでもない。



『国民のための戦争と平和の法』 色摩力夫著(※戦時国際法の専門家)

…それでは具体的にはどこに規定されているのでしょうか。いかなる文書を読めばよいのでしょうか。それには、現在、本当に効力があり、国際社会で直接妥当している慣習法及至「条約」はどれかということを、厳密に吟味しながら特定しなければなりません。

つまり、専門用語で言えば「現行法」は何か、「適用法規」はどれかという前提問題です。

この前提問題は、国際法のみならず、いかなる法の分野でも意外とややこしい問題なのです。よほど精密に検討しないと、うっかり間違えることがあります。専門家と自称している人でも間違いを冒すことが少なくありません。十分の注意を要します。




以上より、下記【国際法学者藤田教授】見解は、いわゆる『南京事件』に適用する事はできないと判断されます。



南京攻略戦時における【現行法】及び【適用法】の観点から下記見解は適用出来ない


『新版国際人道法』 藤田久一著(※国際法学者)

…たしかに、一般的にいえば、人道法の実効性は多分野にわたる国際法規則のなかでも最も不安定で疑わしい分野に入ると考えられてきた。

武力紛争中に適用されねばならない人道法にはその法遵守を効果的に強制する手段もないこと、また戦数によって緊急事態には法を破りうるという主張、が右の疑問に拍車をかけてきたことは事実である。

しかし、かつてドイツの学者が主張した戦数が人道法分野で認められるかどうかはきわめて疑問でありむしろ否定的に解されねばならないと思われるが(1)、そもそも戦数は、例外的な緊急事態にのみ認められる概念であるとすれば、人道法の実効性を一般的に否定するものではなく、それを前提にさえしているといわねばならない。

(1). 戦数ないし戦時非常事由の理論は一九世紀後半ドイツの学者により唱えられ、第一次世界大戦までドイツでは通説とされていたもので、その意味するところは、国家の緊急事態、すなわち、戦争の目的達成や重大な危険からの回避という事態において、戦数が戦争法に優先する、ということである。

一般に、すべての法制度にはそれに内在する局限性、つまり緊急状態ないし必要状態がそれを破りうることを含んでいるともいわれ、国家緊急権という言葉もある(小林直樹『国家緊急権』学陽書房、一九七九年参照)。国際法においても、重大な危険により脅かされる国家の本質的利益を守る他の手段のないとき、国際義務に反する国家行為の違法性が阻却される場合がありうるとも考えられる。

しかし、戦争法や人道法分野にこれを不用意に導人することはきわめて危険である。戦争や武力紛争の状態は、そもそも国家の重大な利益やその生存のかかった事態であるから、あらゆる戦争法、人道法の無視が、戦数を理由に正当化されてしまうからである。

また、ドイツ流の戦数論を批判しつつ、戦数とは別のより狭い特別の軍事必要概念を認め、その場合にのみ戦争法侵犯を肯定する見解もある。

しかし、この軍事必要概念も戦数と実際上区別し難く、結局戦数論と選ぶところがなくなってしまうと思われる。

そもそも、戦争法、人道法の諸規定は軍事必要により多くの行動がすでに許容される武力紛争という緊急状態においてなお遵守が要請されるものであるから、それらの規定は予め軍事必要を考慮に入れたうえ作成されている。

したがって、条約規定中、とくに、「緊急な軍事上の必要がある場合」とか「軍事上の理由のため必要とされるとき」といった条項が挿人されている場合を除き、戦数や軍事必要を理由にそれらを破ることは許されない。

このいわば戦数否定論は、ユス・コーゲンス的色彩の濃い人道法の性質に照らしても、またジュネーブ条約の規定米英の軍事提要の動向(The Law of Land Warfare, FM27-10[1956] sec3.; The Law of War on land, The War Office [1958], sec.633) からみても正当であるといえよう。



【国際法学者藤田教授】は、現代の観点から上記の【軍事的必要】に対する否定的な見解を述べていますが、現在においても【軍事的必要】【容認】する見解がある事を下記に紹介しておきます。

(※下記【国際法学者佐藤教授】見解は、【2001年】に述べられたもので、日本において【条約法条約】が効力を発生させた【1980年(※昭和55年)】より後に出されたものになります。)



『南京事件と戦時国際法』
佐藤和男教授(※国際法学者)


一般に国際武力衝突の場合に、予想もされなかった重大な軍事的必要が生起して交戦法規の遵守を不可能とする可能性は皆無とはいえず、きわめて例外的な状況において誠実にかつ慎重に援用される軍事的必要は、容認されてしかるべきであるという見解は、今日でも存在しているのである。






--【第39項】 国際法学者藤田教授と『軍事的必要』--

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